口を開けたり食べ物を噛んだりすると、顎の関節が痛んだり、カクカクと音がすることはありませんか?こうした症状が気になる場合、顎関節症の可能性があります。顎関節症の患者さんは近年増えているといわれており、20~30代の女性に多い傾向(※)があります。今回は顎関節症の症状や原因、そして対策について、サンスター財団附属千里歯科診療所 所長・鈴木秀典先生に教えていただきました。
※ 出典:厚生労働省「平成28年 歯科疾患実態調査結果の概要」
- 監修/鈴木秀典(すずき ひでのり)
- 一般財団法人サンスター財団附属千里歯科診療所 所長
1994年 岡山大学歯学部卒業 岡山大学歯学部インプラント再生学分野入局
1999年 一般財団法人サンスター財団入社 附属千里歯科診療所勤務
2004年 同診療所 副所長
2015年 同診療所 所長
〈所属〉
日本補綴歯科学会(専門医指導医)/日本臨床歯周病学会/日本口腔インプラント学会/日本歯科審美学会/日本口腔リハビリテーション学会/スタディグループClubGP理事/ブレイクスルー大阪(主宰)
顎関節症は、顎の関節と筋肉に症状が現れる
顎関節とは、図のように耳の穴の前にある関節で、この部分に指を当てて口を開けたり閉めたりすると動くことが確認できると思います。
顎関節症の症状としては、顎関節や咀嚼筋が痛む、顎が鳴る、口が開けづらいなどがあります。

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顎関節症の主な症状
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| 顎関節痛 |
口を開けたり食べ物を噛んだときに顎関節が痛む |
| 顎関節雑音 |
口を開け閉めする時に「カクカク」「ジャリジャリ」などの音がする |
| 咀嚼筋痛 |
口を開けたり物を噛んだときに咀嚼筋(咬筋、側頭筋)が痛む |
| 開口障害 |
口を大きく開けられない、開けづらい |
症状が出るのは、顎関節と咀嚼筋なのですね。
両方の部位に症状が出ることはありますか?
両方に出ることはあまりないですね。顎関節か咀嚼筋、どちらかの症状を訴える方がほとんどです。
顎関節症の症状は、顎の片側だけに出るのでしょうか。
私の経験的には、大多数の方が片側に症状が出ます。同時に両側が痛いという方はほとんどいません。
症状が出る部位によって、原因は異なります。
顎関節が痛い場合は、頬杖やうつ伏せ寝といった日常習慣による顎関節への過度な負荷が原因です。また、大あくびをしたり、硬いものを噛んだりしたことで、関節に負荷がかかることも原因になります。
一方、咀嚼筋痛の場合は、食いしばり癖や歯ぎしりが原因になります。無意識のうちに上下の歯を接触させてしまうTCH(Tooth Contacting Habit=歯列接触癖)も、咀嚼筋痛の原因となります。
歯科医院での診察方法は?どんな治療をするの?
「顎関節症かな?」と思った場合、どの程度の症状で歯科医院に行くべきでしょうか?
受診の目安は、日常生活に支障があるかどうかです。
顎関節症は、何もしなくても自然に症状がなくなることもあります。しばらく様子を見て、痛みのせいで眠れなかったり食事ができなかったりする場合や、口を開けづらく食べ物を頬張れない場合は受診しましょう。

一般的な顎関節症の場合は、レントゲンではわからないことが多いので、問診で症状を伺って診断します。重症の場合は、MRIを撮影することもあります。
残念ながら、今のところ顎関節症に決定的に効く治療法は見つかっていません。
そこで、軽症の場合は消炎鎮痛剤を服用していただいて炎症や痛みを緩和したり、食いしばり癖のある人はマウスピースを使って顎関節への負担を減らしたりしながら、様子を見ていくことになります。
また、「開口訓練」といって、口を開ける練習をすることで筋肉の痛みを和らげる指導をすることもあります。
いずれの治療法も、歯科医院で専門家の指導を受けることが大切です。
日頃の生活の中で、食いしばりに気をつけよう!
顎関節症の改善のために、自分でできることはありますか?
歯科医院で開口訓練の指導を受けたら、無理のない範囲で練習するといいでしょう。
あとは、安静にすることも大切です。咀嚼筋痛は筋肉痛ですから、痛む側の顎で食べ物を噛まないようにして、休ませてあげるのは効果的です。硬い食べ物を控えたり、なるべく食いしばらないように気をつけたりしましょう。
一度症状が改善しても、再発することはあるのでしょうか?
食いしばりの癖のある方が咀嚼筋痛になる背景因子として、ストレスがあります。治療によって咀嚼筋痛が治っても、ストレスが解消されなければ、再発の可能性はあります。再発防止のためには、ストレスへの対処や生活習慣の見直しにより、心身の健康を保つことが重要です。
最近は咀嚼筋痛の症状を訴える方が多いのですが、リモートワークの普及で1日中パソコンに向かっている人が増えて、知らず知らずに歯を食いしばったり噛み締めたりしている影響が大きいと感じています。
先ほどTCH(歯列接触癖)について説明しましたが、本来上下の歯は、食べ物を噛んだり唾を飲み込む「嚥下(えんげ)」という動きをする以外の時間は接触しません。安静時の顎の正しい位置は、下の顎がちょっとぶら下がった状態の「下顎安静位」で、上下の歯は1~3㎜開いている状態です。まずは日頃から上下の歯を離すことを意識してみましょう。

日毎の心がけが大切なのですね。
みなさんも上下の歯を離すことを意識してみてくださいね。
【参考記事】
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