糖尿病だと白血球の機能が低下してしまうので、感染症である歯周病にかかりやすく、そして、それが悪化しやすくなります。この糖尿病→歯周病のベクトルで影響を及ぼすことは、アメリカのピマインディアンの研究などで、よく知られるようになってきました。
河津さんは、診療所で、特に糖尿病の患者さんの処置を担当し、60名ほどの患者さんに治療・指導をおこなってきた歯科衛生士。過去の治療のデータから、歯周治療によって糖尿病がよくなった結果をまとめ、学会で発表した経歴も持っています。日々の勉強と治療・指導の中で、糖尿病と歯周病、一見遠いように見える両疾患が互いに影響を及ぼしあっていることを実感したという河津さんが、お口の病気、オーラルケアが糖尿病に及ぼす影響や治療についてお話しします。
糖尿病と歯周病の関係は、コミュニティでお知らせした際には、「知らなかった!」というコメントもありました。
そうですね。まだ「なぜ歯医者さんと糖尿病が関係あるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、糖尿病が歯周病を悪化させる要因になることはしばしばあります。糖尿病でかかっているお医者さんが勧めてくださって歯周病の治療にいらっしゃる患者さんは多くいらっしゃいますよ。
なぜ、糖尿病が歯周病を悪化させる要因になるのですか?
図:歯周病と糖尿病の関係図
糖尿病だと白血球の機能が低下してしまうので、感染症である歯周病にかかりやすく、そして、それが悪化しやすくなります。この糖尿病→歯周病のベクトルで影響を及ぼすことは、アメリカのピマインディアンの研究などで、よく知られるようになってきました。
歯周病→糖尿病という逆の影響もあると聞いたことがありますが、本当なのでしょうか?
はい。近年の研究では、逆の影響、すなわち歯周病→糖尿病というベクトルでも悪影響を及ぼすこともわかってきたのです。歯周病で口の中に慢性的に炎症があると、炎症性の物質が全身をめぐってしまい、インスリンの効きを悪くしてしまって血糖コントロールを難しくするようなのです。
歯周病は口のなかだけの病気ではないのですね。
はい。さらに、歯周病が進むと、歯がグラグラしたり、上下の歯がうまく咬み合わなくなったりします。そうなると、食事がおいしくなくなるだけでなく、やわらかめのものに偏った食事が多くなり、また、あまり噛まずに飲み込んでしまうようになる傾向があります。野菜や果物などの量が減って、食物繊維やビタミン、ミネラルが少なめになることもわかってきました。
バランスの良い食事をとるためには、口の健康も大切なんですね!
糖尿病の方の歯周病のケアには特別なことがあるのですか?
いいえ、基本的には同じですよ。診療所では、歯みがきの指導を行い、自宅でできるケアからはじめていただくようにしています。糖尿病患者さんが自ら、歯周病との関わりを意識して来院されるということはあまりなく、ご自身の糖尿病の状態がどのぐらいなのかも、よく把握されていない方もおられます。そうした方に大事なことは、できることからやっていただくこと。歯みがきは毎日のことなので、お口の状態の改善を実感しやすく、ケアを続けるモチベーションも上がっていきやすいのです。
歯周病のケアで糖尿病の状態がよくなった方もいらっしゃいますか?
オーラルケアを頑張っている患者さんは、糖尿病の状態もよくなって行く場合が多いですね。ですから、ケアの指導をするうえでは、患者さんが継続できるように、一緒に目標設定をして、目標が達成できるようにサポートしています。目標設定は、患者さんが病院で毎回出してもらっている血糖値の検査の数値で行っています。具体的な数値を目の前にすると改善しているかどうかが一目瞭然なので、それまでは病院で数値を聞いてもよいのか悪いのかよくわからなかった患者さんがケアへの意欲を強めて、結果として歯周病も、糖尿病も改善につながっていきます。