コラム
2012/10/17

専門家インタビュー Vol.2【糖尿病合併症の原因と対処法について】 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌科学 教授 西尾 善彦先生

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Vol.2【糖尿病合併症の原因と対処法について】
鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科
糖尿病・内分泌内科学 教授 西尾 善彦先生

鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌科学 教授 西尾 善彦先生

約25年にわたって糖尿病の臨床と研究に携わってこられた鹿児島大学の西尾先生。糖尿病研究第一人者の視点から、「糖尿病の合併症がなぜ起こるか」と、「どのように対処していくべきか」をお伝えします。糖尿病をより悪化させないためには、「取り組みやすいことから始めて継続を」。そう語る口調には、長い臨床の経験を持つ先生ならではの熱意がこもっていました。

糖尿病でもっとも怖いのは合併症。とくに危ないのは血管障害

私が研究しているのは、糖尿病の患者さんにとって一番問題となっている合併症です。高血糖によって引き起こされる合併症にはいろんな種類があるのですが、「血管の障害」が合併症の主な要因です。血管の障害とは、いろんな要因によって血管が詰まりやすくなることをさし、大きい血管で起こると動脈硬化、微小の血管で起こると、視力低下や腎臓の浄化能力低下、末梢神経の障害などを引き起こします。私が研究しているのは、この血管の合併症はどうして起こるか、そして、どのように対処してくべきかというテーマです。

ただし、高血糖になるとなぜ血管に障害が起こるのか、まだメカニズムが確定しているわけではありません。まだ仮説の段階ですが、ひとつの説として、高血糖によって増加する酸化ストレスが、血管に対する障害を引き起こすのではないかと考えています。

血管の内皮の働きと高血糖の関係

血液は固まるという性質をもっていて、それはけがをしたときなどに出血が自然に止まるという重要な役目を担っているのですが、一方、血管の中で固まってしまうとさまざまな障害を引き起こします。そこで、血液が固まらないようにするために重要な役割を果たしているのが、血管の内側を覆っている一層の細胞からなる血管内皮です。内皮の表面は血液が固まるのを防ぐ物質で覆われており、さらに内皮には一酸化窒素というガスを放出する機能があり、それによって血液の固まりやすさや血管の広がり方を調整しているということが研究でわかっています。

血管の内皮の働きと高血糖の関係

高血糖になると、この重要な血管内皮の機能が低下してしまうことがわかっています。決定的なメカニズムはまだ明らかになっていませんが、高血糖は酸化ストレスを増やしたりするようで、血管を詰まりやすくしてしまうのです。

しかし、血管内皮の機能低下に自覚症状はありません。病院に行けば詳細な検査で分かりますが、自分では気づくことができません。
生活習慣の改善をしていくことで、血管内皮の機能低下を招く原因を取り除くことが重要なのです。

血管内皮の機能低下を招く原因とその対処

血管内皮に障害が起こる原因は、いくつかわかっています。まずはタバコ。そして、高血圧、コレステロール、肥満。さらに、高血糖です。

血管内皮に障害が起こる原因
血管内皮の機能低下を招く原因とその対処

タバコやコレステロールは、比較的大きな血管に影響してきます。動脈硬化などの合併症は、糖尿病でなくても起こってくるのです。対して高血糖は、大きな血管にも小さな血管にも影響がありますので、視力低下や腎機能の低下を引き起こします。これらの小さな血管の障害に起因する機能低下は、糖尿病ならではといえるでしょう。

自覚症状もなければ目にも見えない血管内皮の機能低下ですが、日頃から抱えている症状が「もしかしたら血管内皮の障害に起因するかも」と意識することで、生活習慣の改善につながるといいですね。
タバコをやめる、コレステロール値を下げるなどのほかに、糖尿病の方は血糖値の上がり方に注目することが重要です。

毎日の食習慣でのアドバイス

人間の体は、食事の後には血糖値があがりますが、慢性的な高血糖状態である糖尿病の場合はこの上昇を“緩やかにする”ことが重要です。

お菓子や清涼飲料水に含まれる単純糖を摂ると血糖は急激に上昇するので、気をつけましょう。果物も最近は随分と糖度の高いものが多いので摂り過ぎには注意が必要です。同じ糖質の中でも、でんぷんは、複雑な構造をした糖質ですので、血糖値の上昇はブドウ糖や砂糖に比べ、緩やかになります。

毎日の食習慣でのアドバイス

血糖値の上昇を考えるときに重要な指標が、GI値(グリセミック・インデックス)です。数値が高ければ高いほど血糖があがりやすく、低ければ血糖の上昇は緩やかとなります。市場には「低GI」をうたった食品もありますし、食品に対するGI値の表なども手に入れることができます。

たとえば白米よりは玄米の方が低GI、うどんよりはそばのほうが低GIです。

また、食物繊維が多く含まれる食品を摂ると、血糖値があがりにくくなることがわかっています。主食に関してはGI値、副食に関しては食物繊維が重要であるといえるでしょう。

糖尿病をより悪化させないためには、何よりもこうした食生活への気配りを「続ける」ことが重要です。とはいえ食事は毎日のことですから、急激に食生活を切りかえるというのは難しいものです。1日の中で、夕食だけ胚芽米や玄米に置き換えてみたり、食物繊維を豊富に含む野菜を一緒に摂ることでバランスをとるなど、取り組みやすいことから始めて構いません。

食べる順番は、懐石料理をイメージするとよいでしょう。懐石料理は、野菜や魚から先に食べて、最後にお米を食べますよね。あの順番で時間をかけて食べることもとても有効です。

体験してわかった、患者さんの気持ち

体験してわかった、患者さんの気持ち

実は、私自身も健康面の懸念から、生活習慣の改善に取り組んだことがあります。間食をやめたり、体重を気にしたり。そこで気づいたのが、続けることの難しさでした。体重を減らす、食生活をかえる、というのは言葉でいうと簡単ですが、いろんな苦労があるものです。

特に糖尿病の場合は長期間に及んで向き合わなければならない病気ですから、取り組みに対してストレスがないことも重要です。
よくない、と言われるものをすべて禁止するのではなく、満足をしながら、どれだけよいものに転換していけるか、それが大事なことだと思います。

若いころの私は生化学的な病気のメカニズムを研究することに夢中で、研究が患者さんの生活にどのように結びつくかのイメージがあまり大きくはありませんでした。
しかし、臨床経験を積んで患者さんに接していく中で、だんだんと患者さんの役に立つ研究の重要性を感じるようになりました。食事や患者さんの行動に関わる研究は、臨床に密接していることに気づいたのです。食生活については、科学的な検討は意外となおざりにされており、経験則や慣習にとらわれていた面があります。今後はこの分野に科学的なメスを入れることへの興味が強くなっていますね。

※このコラムは、「糖尿病とうまくつきあう」サイトに掲載されたものです。
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