私たち人間の肌(皮膚)は外側から、「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層でできています。
カラダ全体を包む肌は、人間最大の臓器ともいわれ、体内と外界の環境を隔てて人体の恒常性を保つ役割を持ち、外界から来るさまざまな刺激から生体を守る、体内からの水分蒸発を防ぐ、皮脂や汗を分泌する、体温を調節する、痛み・熱さ・かゆみなどを感じるといった機能を持っています。
肌の一番上の層にある表皮は、外側から「角質層」「顆粒層」「有棘(ゆうきょく)層」「基底層」の4層で構成されています。細胞が分裂して増殖するのは、カラダの一番奥にある基底層。その後は、内側から次々に増殖する細胞に押し出されるように、有棘層から顆粒層へと徐々に移動します。顆粒層にたどり着いた細胞は、フィラグリンや角層細胞間脂質の合成をはじめるとともに細胞自体を変形させます。その後、細胞は角化して角質細胞になり、やがて垢となって剥がれ落ちます。
表皮は体外の刺激(アレルゲンや化学物質など)から守るとともに、体内からの水分の蒸発を防ぐバリア機能を発揮します。肌バリアの中で特に大きなウエイトを占めるのが、わずか0.02ミリほどの厚さしかない角層です。
角層は、角化細胞が緊密に積み重なり、その間を細胞間脂質が埋めるという「レンガとモルタル」のような構造をしています。細胞間脂質は、セラミド・コレステロール・脂肪酸などが立体的な構造をとることによりバリア機能を形成し、アミノ酸をはじめとしたNMF(天然保湿因子)が水分を抱えることで角層の水分を保持しています。
ところが、乾燥・摩擦・過度な洗浄などによって、これらの角層の構造が崩れ、NMFや細胞間脂質が流出します。その結果、肌のバリア性が下がりアレルゲンなどが侵入しやすくなることで、かゆみや湿疹、アレルギー性皮膚炎などの原因になります。
水中で暮らす魚や両生類幼生(おたまじゃくしなど)の肌は粘液でおおわれていて、角質層は存在しません。陸に上がることがあるカエルには薄い角質層がありますが、乾燥には耐えられません。
ところが、鳥類や哺乳類になると、多重層の角質層を持っています。バリア性が大幅に向上することで、陸上という乾燥した空気環境で生きていけるようになったのです。このように、私たち人間の肌も、その長い進化の歴史の中で乾燥した環境にあった構造を持つようになったといわれています。
表皮の細胞が角質層に移動する時に起こる変化を特別に「角化」といいます。角化する前の顆粒細胞ではフィラグリンやロリクリンといったタンパク質が作られ、角化する時に細胞の外に出てきます。そして、フィラグリンはケラチンとともに角質層の構造を作り、ロリクリンはその構造体を補強します。やがて、フィラグリンは分解されて天然保湿因子(NMF)となり、角質層の水分保持というバリア機能にとって重要なはたらきを担います。
近年、アトピー性皮膚炎の要因の一つとしてフィラグリン遺伝子の変異がクローズアップされており、実際、アトピー性皮膚炎患者では表皮のフィラグリンが少ないという報告もあります。
フィラグリンは正常な角質の形成に関わっていて、保湿成分の材料であることからも、アトピー性皮膚炎の要因に肌のバリア能と乾燥が関わっていることがわかります。